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東京地方裁判所 平成5年(ワ)11561号 判決

原告

石川芳太郎

右訴訟代理人弁護士

高畑拓

横松昌典

被告

千代田生命保険相互会社

右代表者代表取締役

神崎安太郎

右訴訟代理人弁護士

岸上茂

被告

株式会社東京三菱銀行

右代表者代表取締役

若井恒雄

被告

ダイヤモンド信用保証株式会社

右代表者代表取締役

丹後忠次郎

右二名訴訟代理人弁護士

吉永光夫

主文

一  被告千代田生命保険相互会社は、原告に対し、金五二五八万六九四五円及び内金三六六八万六九四七円に対する平成四年一一月一一日から、内金一五八九万九九九八円に対する平成八年三月二九日からそれぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告千代田生命保険相互会社に対する主位的請求及びその余の予備的請求並びに被告株式会社東京三菱銀行及び被告ダイヤモンド信用保証株式会社に対する請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、原告に生じた費用の一〇分の一及び被告千代田生命保険相互会社に生じた費用の四分の一を被告千代田生命保険相互会社の負担とし、原告及び被告千代田生命保険相互会社に生じたその余の費用並びに被告株式会社東京三菱銀行及び被告ダイヤモンド信用保証株式会社に生じた費用を原告の負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一  請求

一  主位的請求

1  被告千代田生命保険相互会社は、原告に対し、金八〇三五万八五五八円及びこれに対する平成三年一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2(一)  被告株式会社東京三菱銀行と原告との間の、平成二年七月二三日付けの消費者ローン契約に基づく債務(平成八年三月二九日現在金五二九九万九九九三円)が存在しないことを確認する。

(二)  被告株式会社東京三菱銀行は、原告に対し、金二五四五万四五一一円及びこれに対する平成四年一一月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  被告ダイヤモンド信用保証株式会社は、原告にたいし、金五四万一三一七円及びこれに対する平成三年一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  予備的請求

被告千代田生命保険相互会社及び被告株式会社東京三菱銀行は、原告に対し、各自金一億八一三五万四三七九円及びこれに対する平成三年一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

一  本件は、銀行から保険料等の金員を借り入れ、保険会社にこれを支払って変額保険に加入した原告が、被告銀行及び被告保険会社の各担当者による変額保険の勧誘行為における説明が不十分であったこと等を理由として、主位的に、変額保険契約、融資契約及び保証委託契約について錯誤による無効を主張して、被告保険会社に対しては支払った保険料と受け取った解約返戻金との差額の返還を求め、被告銀行に対しては融資契約に基づく残債務が存在しないことの確認を求めるとともに支払った利息の返還を求め、被告信用保証会社に対しては支払った保証委託手数料と受け取った戻保証料の差額の返還を求め、予備的に、被告銀行と被告保険会社の共同不法行為を主張して、銀行に弁済した元利金から解約返戻金、戻保証料及び借入剰余金を差し引いた自己資金により支出した弁済額と残債務の合計額、慰謝料及び弁護士費用を損害として、不法行為による損害賠償を請求した事案である。

二  前提となるべき事実(当事者間に争いのない事実を含む。)

1  原告は、被告千代田生命保険相互会社(以下「被告千代田」という。)との間で、平成二年六月二五日、別紙契約目録の番号1ないし3記載の各変額保険契約を申し込み、同年八月一日、右各変額保険契約を締結し、同年一二月二五日、同目録の番号4記載の変額保険契約を申し込み、平成三年一月一日、右変額保険契約を締結した(以下これらを併せて「本件各変額保険契約」という。)。

本件各変額保険契約は、いずれも契約者を原告とし、被保険者を原告の妻石川憲子、次男石川賢治、三男石川秀樹及び長男石川芳憲として締結され、保険料は総額三億九四二七万五〇〇〇円、基本保険金は各三億円、総額一二億円である(乙第二ないし第一〇号証、第二二号証の一ないし四)。

2  原告は、被告株式会社東京三菱銀行(旧商号株式会社三菱銀行、以下「被告三菱」という。)との間で、平成二年七月二三日、三億三〇〇〇万円を、同年一二月二五日、八〇〇〇万円を借り入れる旨の各消費者ローン契約を締結し(丙第二号証、第五号証の一、二、第九号証の一の一、二、第一〇号証の一)、右借入金の中から本件各変額保険契約の保険料等を一括して支払った(甲第一七号証の一ないし四)。また、原告は右各ローン契約より生じる利息を被告三菱から借り入れて支払うために、同年七月二五日、被告三菱との間で当座勘定貸越契約を締結した(丙第三号証、右各ローン契約及び当座勘定貸越契約を以下「本件各融資契約」といい、本件各変額保険契約と併せて「本件各契約」という。)。

3  原告は、平成二年七月二三日、被告ダイヤモンド信用保証株式会社(以下「被告ダイヤモンド」という。)に対し、原告の被告三菱からの借入債務について保証を委託し、これに基づいて、被告ダイヤモンドは、被告三菱に対し、本件各融資契約における原告の債務をそれぞれ連帯保証した(丙第六、第七号証、第八号証の一、二、第九号証の四、第一〇号証の四)。

4  原告は、平成二年七月二三日、被告三菱との間で、銀行取引による一切の債権等を、被告ダイヤモンドとの間で、保証委託取引等をそれぞれ被担保債権の範囲として、別紙物件目録一ないし三記載の各不動産について、極度額を五億円とする各根抵当権設定契約を締結し、同月二五日、被告ダイヤモンド、被告三菱の順に根抵当権設定登記をした(甲第五ないし第七号証、丙第四、第一一号証)。

5  原告は、平成四年一一月一一日、本件各変額保険契約を解約し、別紙契約目録「返戻金+配当金」欄記載の解約返戻金及び配当金合計三億一三九一万六四四二円を受領し、同月一八日、被告三菱に対し、前記借入金元本四億一〇〇〇万円及び利息のうち二五四五万四五一一円の合計四億三五四五万四五一一円を弁済した(甲第一ないし四号証、乙第一〇ないし第一三号証の各一、二、丙第一四号証の一ないし四、第一五号証)。

また、原告は、平成四年一二月二五日、被告ダイヤモンドから、同社に対して支払った保証委託手数料等八一四万七八六〇円のうち、右弁済による戻保証料として七六〇万六五四三円の返還を受けた(丙第九号証の四、第一〇号証の四、第一五号証)。

なお、原告の本件各融資契約に基づく残債務は、平成八年三月二九日現在で、五二九九万九九九三円(既発生利息)である。

三  争点

1  要素の錯誤

本件各契約の締結に際し、原告は、特別勘定の運用実績が最低でも九パーセントが保証されているのみならず一二パーセント以上であることが確実であり、解約返戻金により保険料等支払のための借入金元利金を返済できることが確実であるなどと誤信していたか。

2  説明義務違反

本件各契約の締結に際し、被告千代田及び被告三菱の担当者は原告に対し変額保険の仕組みや危険性を説明せず、特別勘定の運用実績が一二パーセント以上である等述べて断定的判断を提供したり変額保険の有利性を強調して違法な勧誘を行ったか。

四  原告の主張

1  本件各契約に至る経緯

(一) 原告は、平成二年五月ころ、原告の経営する光起産業株式会社に、被告三菱神田支店の行員である今堀雅彦(以下「今堀」という。)が訪れ、同人から、「相続税がぐっと安くなり、一銭の金も要らないで相続税対策ができるすばらしい保険がある。」等と変額保険を勧誘された。

(二) 原告が今堀に対し変額保険の詳しい説明を求めたところ、今堀は、原告に保険会社であるエクイタブルファイナンス「以下「エクイタブル」という。)を紹介し、同社の社員が原告に変額保険について説明した。

しかし、原告は外資系の企業に不信感を持っていたため、エクイタブルの勧誘を断り、原告が従前から養老保険に加入するなど取引のあった被告千代田を今堀に紹介してもらうことになった。

(三) 今堀は、平成二年七月三日ころ、千代田生命神田支店の所長である佐々木博(以下「佐々木」という。)を伴って原告を訪れ、佐々木は原告に対し、土地が今後五年間は、一年に一〇パーセントずつ、その後は五パーセントずつ値上がりすることを前提に、このままでは相続税額が一〇年後には一三億三〇〇〇万円以上に、二五年後には二七億七〇〇〇万円以上になること、原告の妻及び息子三名を被保険者として、合計一二億円の変額保険に加入すれば、運用実績が九パーセントで推移しても解約返戻金は一〇年後には七億五〇〇〇万円以上に、二五年後には二一億一〇〇〇万円以上になって、一〇年後なら一憶三〇〇〇万円、二五年後なら六億六〇〇〇万円の節税になることをシミュレーションの数字を示して説明した。しかし、右シミュレーションには解約返戻金に課される所得税及び住民税については記載がなく、右各税を控除すれば九パーセントの場合ですら節税の効果は生じない。

さらに、佐々木は、運用実績について、「大蔵省では九パーセントまでしか認めていないので、それ以上の数字の書類は出せないが、証券、株を運用して、実際はこれ以上になる。」と述べて一二パーセントの場合の計算を示したメモを見せ、「一二パーセントの場合、これだけ得する。責任を持って確実に運用するので間違いない。実際は13.2パーセントくらいだ。」と説明した。

佐々木は、その後も数度にわたり原告を訪問し、前記のような説明を繰り返したが、その際には、常に今堀も同席していた。

(四) 原告は、大銀行である被告三菱と被告千代田の双方から、相続税上大変有利な保険であることを具体的な数字を示して説明されたことから、その説明を信用し、変額保険に加入することを決意した。

2  主位的請求錯誤無効による不当利得返還請求及び債務不存在確認請求

(争点1)

(一)(1) 変額保険とは、契約者から払い込まれる保険料の多くを特別勘定において、株式や債券で運用し、その実績によって保険金額及び解約返戻金額が変動する生命保険契約であり、経済情勢や為替等の変動によって生じるリスクを契約者が負担することになる契約である。

そして、本件各変額保険契約は、相続税対策を目的として勧誘され、締結に至ったものであり、払込保険料が全額銀行からの融資で賄われるほか、これに対して発生する利息も銀行融資により賄われることになっていること(融資一体型変額保険)及び推定相続人である原告の妻及び子供らが被保険者になっていることを特徴としている。

(2) 変額保険における被保険者が推定相続人である場合、保険契約者が死亡して相続が発生しても死亡保険金は支払われないが、保険契約上の権利と銀行からの借入金債務が相続され、相続税法上、その権利は払込保険料額で評価されることになっている一方、銀行借入金は、経過年数分の利息の分増加し、相続財産が減少するので、相続税の節税になるとされる。

もっとも、銀行借入金の元利金を返済しなければならないので、相続人は、相続した変額保険を解約し、解約返戻金をもってこれに充てることになる。また、解約返戻金は一時所得とされるため、所得税及び住民税が賦課される。

したがって、この変額保険が相続税対策として有効であるためには、解約返戻金及び節税額の合計が、借入元利金、所得税及び住民税の合計より多くなければならない。

(3) ところで、解約返戻金は、特別勘定の運用実績によりその額が変動するうえ、払込保険料の全額が特別勘定に回っているわけでもないから、借入金の利率と特別勘定の運用実績を単純に比較しても意味がない。また、特別勘定の運用実績、借入金の利率、所得税及び住民税の税率等はそれぞれ変動することからすれば、相続税対策として有効かどうかのリスクを予測することは極めて困難となっている。そして、実際には特別勘定の運用実績が長期にわたって高率を維持した場合といった局限された場面でなければ、相続税対策とはなり得ず、運用実績が九パーセントの場合ですら解約返戻金に課される所得税及び住民税を考慮すると相続税対策とはならない。まして、それ以下の場合には膨大な損失を生じ、到底相続税対策となり得るものではない。

(二) 前記のとおり、原告は、佐々木の説明やシミュレーションにより、変額保険の運用実績は、契約当時13.2パーセントであること、今後も最低でも九パーセント以上にはなり、それどころか一二パーセント以上をも維持し、これが貸付金利を上回ることはほぼ確実であること、その結果、相続税を大きく節税でき、なおかつ解約返戻金により利息も含めた借入金を返済できることを信じて本件各契約及び保証委託契約を締結した。この動機は、契約に至る勧誘の過程において、被告千代田、被告三菱及び被告ダイヤモンドに表示されており、原告には、右各契約の要素について錯誤があったというべきであり、無効である。

(三) よって、原告は、各被告に対し、次のとおり請求する。

(1) 被告千代田に対し、不当利得返還請求権に基づき、払込保険料と解約返戻金の差額である八〇三五万八五五八円及びこれに対する保険料払込の後である平成三年一月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払

(2) 被告三菱に対し、本件各融資契約に基づく債務が存在しないことの確認と不当利得返還請求権に基づき、既払いの利息相当額である二五四五万四五一一円及びこれに対する利息弁済の日の翌日である平成四年一一月一九日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払

(3) 被告ダイヤモンドに対し、不当利得返還請求権に基づき、保証委託手数料と戻保証料の差額である五四万一三一七円及びこれに対する保証委託手数料支払の後である平成三年一月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払

3  予備的請求 不法行為による損害賠償請求(争点2)

(一) 本件のように、銀行からの借入金によって保険料及び利息のすべてを賄い、相続発生時に死亡保険金又は解約返戻金で借入金を弁済することを前提として変額保険に加入する場合には、前述のとおり、特別勘定の運用実績、借入金の利率、所得税及び住民税の税率等の要素が複雑に絡み合うことから、保険募集人において、募集時に必要とされる一般的説明に加えて、少なくとも当時の金利水準、変額保険の運用実績に基づいて検討を加え、原告の判断の基礎となるべき事実について説明すべき信義則上の義務があるというべきである。

(二) 被告千代田においては、保険金及び解約返戻金が運用実績により変動し、最低保証があるのは基本保険料のみであること、払込保険料は株式や債券等で運用されること、従来の定額保険とは異なり、変額保険においては資産運用のリスクを契約者が負うこと等を具体的な数字を示して原告に説明すべき義務を負う。そして、本件各変額保険契約に関しては、運用実績が大体一二パーセント以上であるか、又は借入金利を上回らなければ相続税対策の効果は生じないこと、変額保険のもともとの予定利率は4.5パーセントであったこと、契約当時の運用実績はマイナス運用であったこと等について、説明すべきであったにもかかわらず、佐々木は、契約当時の運用実績を13.2パーセントであるとか、今後も一二パーセント以上を維持するとの説明をしたのみで、説明義務を怠った。

また、佐々木は、本件各変額保険契約の勧誘に際して当時の運用実績を前記のとおり説明し、今後の運用についても九パーセント以上や一二パーセント以上を前提とした「御見積書」と題するシミュレーション(甲第八ないし第一〇号証)を用いて原告に示し、一〇年、二〇年以上にわたって効果が上がると説明したが、これは、大蔵省通達で禁止された「将来の運用についての断定的判断を提供する行為」(昭和六一年七月一〇日蔵銀第一九三三号各生命保険会社社長宛)に該当するし、右文書は、昭和四八年三月二四日付け大蔵省銀行局長通達「生命保険の募集文書図画の取り扱いについて」を受けて生命保険各社で構成される生命保険協会が設けている「募集文書図画作成基準」が定めている生保協会への登録の手続を経ておらず、右文書の記載は、右基準で禁じられている「特定の運用実績例(例えば九パーセントの場合)を他の運用実績例よりも色等で目立つようにすること」に該当するものである。

(三) 被告三菱は、本件のように、被告三菱の行員が主導的に融資と一体をなす変額保険を勧誘している場合には、信義則上、単に融資契約そのものの内容を説明する以上の説明義務を負う。そして、本件各融資契約のように利息についても融資を受け、元利金は相続発生時に一括して、解約返戻金という保険給付から弁済されることになり、しかも、相続税対策により子孫に残そうとしている不動産そのものを担保とする場合には、弁済できなくなるリスク及び弁済できないときの不利益が極めて大きいので、一括弁済の原資である保険給付の適格性及び確実性について融資審査の専門的知識と理解力を有する金融機関として基本的な事項を説明すべきである。具体的には、変額保険の中長期的な運用の基本的目安である予定利率が4.5パーセントであること、複利の元利合計金は相続発生時に何倍にもなること、変額保険の運用が相続発生時まで平均何パーセント以上でなければ弁済できなくなるかということ、変額保険の運用実績は、確実に何パーセント以上であるとはいえないこと、現在の運用傾向が下落傾向であることを説明すべき義務を負うにもかかわらず、今堀は、これらの説明を一切行わなかった。

また、被告三菱は、融資と一体をなす変額保険について、殊更有利な可能性を強調したりしてはならない義務を負うものであるが、本件では今堀自身が最初に変額保険の有利性を強調して勧誘を行って右義務に違反し、その後も今堀は、佐々木の勧誘の際に同席しながら、同人の誤った説明を是正しないばかりか同調していたのであって、これは不正確な説明をしてはならないという義務に違反するものである。

(四) 被告千代田及び被告三菱の前記各違法行為は、密接な関連性と一体性を有し、共同不法行為が成立する。

原告は、右共同不法行為により、次のとおり損害を受けた。

(1) 原告は、平成四年一一月一八日、被告三菱に対し、本件各融資契約に基づく借入金の弁済として、被告千代田から受領した解約返戻金三億一三九一万六四四二円及び不足分として自己資金で一億二一五三万八〇六九円を支払った。その結果、原告が支払わなければならない右借入金の残債務(利息の一部)は、平成八年三月二九日現在五二九九万九九九三円である。

したがって、原告が被った同日現在の損害額は、右自己資金弁済額と右借入残債務額の合計から、戻保証料七六〇万六五四三円及び借入剰余金七五七万七一四〇円を控除した一億五九三五万四三七九円である。

(2) 原告が被った精神的損害は、五〇〇万円である。

(3) 原告は、弁護士費用として、一七〇〇万円の損害を被った。

(五) よって、原告は、被告千代田及び被告三菱に対し、共同不法行為による損害賠償として、右合計一億八一三五万四三七九円及びこれに対する本件不法行為の後である平成三年一月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

五  被告千代田の主張

1  本件各契約締結に至る経緯について

(一) 原告は、数年前から養老保険に加入しており被告千代田神田営業所と取引があったため、同営業所の職員である田中博子(以下「田中」という。)に直接電話を架け、変額保険について聞きたいから来てくれと呼んだのであり、田中が所長である佐々木にこの旨を告げて二人で原告の経営する光起産業株式会社の事務所を訪れ原告と面談した。このときには、田中及び佐々木は、今堀のことは全く知らず、その後今堀が被告千代田の神田営業所を訪れたときが初対面であった。

(二) 佐々木は、原告の質問に答えて変額保険についてシミュレーション(甲第八ないし第一〇号証、乙第一八号証)及びパンフレット(乙第一号証)を用いて、ハイリスクな面も含めて説明したが、原告は既に他社の者から説明を受けていたらしく、相当の知識を有し、佐々木がいったん営業所へ戻って調査をしなければ答えられないような鋭く細かい質問も多く、佐々木は、原告の求めに応じてその都度原告を訪れ、原告の質問に答えて説明を繰り返し、その回数は一〇数回に及んでいる。そのうち、今堀が同席したのは、二、三回にすぎない。

原告は、佐々木に対し、自分の相続については既に準備しているが、二次相続のことを考えていると述べていた。

(三) 佐々木は、七月の被保険者石川憲子、同賢治及び同秀樹分の契約締結から一二月の被保険者石川芳憲分の契約締結までの間に、原告から呼ばれ、参考にしたいからと一二パーセントの運用実績の場合の数字を書いてくれと頼まれた。佐々木は、九パーセント以上の運用実績で計算することは、大蔵省から禁止されているためこれを断ったが、原告があくまで研究のためと強く要求するので、長男石川芳憲に相談するためかと考え、一二パーセントの場合を簡単なメモにして渡した。したがって、このメモは変額保険の勧誘のために佐々木が自発的に作成したものではない。

2  争点1及び2について

変額保険は、その解約返戻金が資産の運用実績により変動するハイリスク、ハイリターンな性質を有するが、佐々木は、変額保険全般について、このハイリスクの面も含めて、シミュレーション(甲第八ないし第一〇号証、乙第一八号証)及びパンフレット(乙第一号証)を用いて十分に説明を尽くした。

原告は、変額保険の性質を十分理解したうえで変額保険に加入することを決めたのであり、原告に、本件各変額保険契約についての要素の錯誤があったとはいえないし、被告千代田に説明義務違反があったともいえない。

六  被告三菱の主張

1  本件各契約締結に至る経緯について

(一) 被告三菱神田支店の行員である今堀は、原告の経営する光起産業株式会社の事務所を訪れ、原告と面談し、老朽化した自社ビルを建て替えて事業を多角化することを勧めたが、原告はビル建替えは投資採算に乗らず、多角経営も事業採算が合わないとして消極的であった。

その際に、今堀は、原告から何か相続税対策はないかと聞かれ、変額保険による方法を紹介したが、「相続税がぐっと安くなり、一銭の金も要らないで相続税対策ができるすばらしい保険がある。」などとは言ってはいない。

また、原告が被告千代田を希望したのであり、今堀が佐々木を同行したときには、既に原告は佐々木と面識があり、佐々木から変額保険について説明を受けていたようであるから、今堀が佐々木を紹介したとはいえない。

(二) 今堀は、保険に関する説明をしておらず、佐々木が原告に説明した際に同席したのは、二、三回にすぎない。

今堀は、保険契約の内容も聞いておらず、保険料振り込みの合計額を聞いて処理しただけである。

2  争点1及び2について

(一) 変額保険自体の説明は被告千代田が行い、今堀は、一般論として、相続税対策は法律や税制の改正という不確定要素があるので、一つの方法に頼るのではなく、複数の対策を行う方がリスクが少なくなるなどのアドバイスや、本件各融資契約について、保険料を借り入れた場合、変動金利のため、将来にわたって金利変動のリスクがあること、今後の利息支払のために追加借入れが必要になる結果、借入利息が複利のような形で増えていくこと等の説明を行った。

(二) 保険契約と融資契約は、独立した別個の契約であり、融資一体型変額保険なるものは存在しない。保険会社と銀行の間には、何らの契約も申し合わせも存しない。

今堀は、原告の求めに応じて相続税対策の概要をアドバイスしたにすぎず、被告千代田を指定して同社から詳細な説明を受けたのは原告の選択であり、今堀が佐々木と偶々同席したとしても、共同で保険の売り込みをしたものではなく、専ら、保険料支払のために資金借入れの必要が生じたときは被告三菱と取引いただきたい旨の勧誘をしたのみである。

(二) 原告に、本件各契約について要素の錯誤があったとはいえないし、仮に本件各変額保険契約について錯誤があったとしても、本件融資契約及び本件保証委託契約は、金銭の借入れ及び保証委託の趣旨を十分認識して行われたのであり、錯誤はない。

また、銀行には保険の説明義務はないのであるから、本件各融資契約についての説明を尽くしている以上、被告三菱の説明義務違反の問題は生じない。

第三  争点に対する判断

一  変額保険は、保険契約者が払い込んだ保険料のうち、一般勘定に繰り入れられる部分を除いた部分を特別勘定として独立に管理し、主に株式や債券等の有価証券で運用し、その運用実績により保険金額及び解約返戻金額が変動する生命保険である。定額保険においては安全性重視の運用を行い、一定額の保険金、解約返戻金を保証されており、資産運用の変動によるリスクを保険会社が負っているのに対し、変額保険は特別勘定の運用実績により高い収益が得られる場合もあるが、株価や為替などの変動によるリスクを加入者が負うことが特徴である(ただし、死亡、高度障害保険金については、基本保険金という最低保証が設けられている。)。

変額保険は、本来、インフレによる保険金額の実質的な目減りを避けることができる点に利点があるが、我が国では土地所有者の相続税対策とすることを目的とし、保険料を銀行から借り入れて保険料を一括して払い込むことによって契約する例が多数見られ、その中にも被保険者を土地所有者本人とする型と土地所有者の推定相続人とする型がある。被保険者を土地所有者とする型は、相続発生時に遺族に支払われる死亡保険金によって借入金の元利合計を返済し、残額を相続税の支払に充てるというものである。被保険者を土地所有者の推定相続人とする型は、土地所有者死亡時に、借入金債務と生命保険契約上の権利が被相続人から相続人に移転し、一時払生命保険の権利評価が相続税法上、一時払保険料の額によるものとされているために(相続税法二六条一項ただし書)、マイナス財産である借入金債務は利息によって大きく膨らんでいるのに対し、プラス財産である保険の権利評価額は一時払保険料のままで一定である結果、その差額分だけ相続財産全体の評価が圧縮され、相続税額が低減されるとの節税効果が生じるものであるが、相続人は借入金の元利合計の返済に保険契約の解約返戻金をもって充てることになるため(ただし、右解約返戻金は一時取得になるため、所得税及び住民税が賦課される。)、この返済が可能かどうかは変額保険の運用次第ということになる。

このように、土地所有者の相続税対策とすることを目的とし、保険料を銀行から借り入れて保険料を一括して払い込むことにより締結される変額保険、殊に被保険者を土地所有者の推定相続人とする型の場合には、特別勘定の運用次第で保険契約者が多額の損失を被る危険があるが、相続発生の時期、経済情勢の展開その他の事情如何によっては相続税対策としての目的を達成することのできる場合もあるから、保険契約締結に際しそれまでの経済情勢等の状況により保険契約者が多額の損失を被る危険性が大であると見込まれるのに保険契約者の無知に乗じて契約締結がされるに至ったような場合は別として、このような変額保険契約の締結が一般的に公序良俗に反して無効であり、あるいは著しく不合理なものでその危険性についてあらかじめ十分な説明がされない限り契約締結自体又はその勧誘が当然に違法となり、又は保険契約者の意思表示が当然に瑕疵を伴うことになるということはできない。すなわち、相続税対策の必要性を強調して勧誘がされたにしても、土地所有者は、勧誘する者との関係において付従的に変額保険契約を締結せざるを得ない立場に立たされているということはできず、自らが保険契約者として契約締結の申込みの意思表示をする旨意思決定しない限り保険契約が締結されることはなく、その意味で意思決定の自由は確保されており、契約自由の原則の規律にゆだねられるべきであるといえるから、土地所有者は保険契約締結にあたっては自己の責任の下に経済情勢等の予測を行って意思決定すべきであり、このような意思決定は原則として有効であるといわなければならない。しかし、土地所有者が変額保険の基本的な仕組み、すなわち、保険料の大半が特別勘定として主に株式や債券等の有価証券で運用され、その運用実績により保険金額及び解約返戻金額が変動する生命保険であることを理解せず、特別勘定の運用実績次第では多額の損失を被る危険があるとの認識を持たないまま定額保険と同様のものと誤解して右意思決定に及んだとすれば、契約の基本的要素に関する錯誤があるというべきであるし、土地所有者が変額保険の基本的な仕組みは理解していたとしても、借入金の利息を上回る運用実績が保証されていると誤信して契約締結に及んだとすれば動機の錯誤にあたり、これを表示していれば要素の錯誤を肯定すべきときがある。また、保険契約の勧誘にあたった者がその故意若しくは過失により保険契約者に右のような危険がないとの誤った認識を持たせたために保険契約が締結されるに至った場合又は保険契約者が右のような危険がないとの誤った認識を持っているのにそれを是正しないまま保険契約が締結されるに至った場合には、不法行為責任を肯定すべきときがある。すなわち、土地所有者が変額保険の前記危険性を認識しないまま保険契約者として契約締結の申込みの意思表示をする旨意思決定すれば、その財産に多大の損失を被る虞があるから、保険商品の販売の勧誘を行う者としては、自らはその危険を認識していなければならない立場にあり、勧誘の相手方に対しその財産に生ずることあるべき危険を告知すべき信義則上の義務を負うものというべきである。したがって、右勧誘者が変額保険の基本的な仕組みを説明せず、土地所有者が変額保険の前記危険性を認識しないまま保険契約者として契約締結の申込みの意思表示をする旨意思決定したとすれば、右義務違反を肯定すべきであるし、右勧誘者が変額保険の基本的な仕組みを説明したとしても、実際上は借入金の利息を上回る高い運用実績が確保されている等の断定的判断を示して運用の危険性についての認識を誤らせた場合あるいは現在又は過去の運用実績について誤った情報を提供し、もって、契約締結の申込みの意思表示をする旨の意思決定をする上での判断を誤らせた場合にも、右義務違反を肯定すべきである。しかし、右勧誘者が変額保険の前記のような基本的な仕組みを説明し、土地所有者もその説明を理解したのであれば、契約自由の原則の規律する前提は一応確保されたものといえるから、後は土地所有者において契約後の経済情勢の推移を予測し、借入金の元利金の弁済の見通しを立てるべきであって、勧誘者において借入金の利息を上回る高い運用実績が確保されている等の断定的判断を示した等の特段の事情が存しない限り、信義則上の義務を一応尽くしたものと解するのが相当である。

要素の錯誤又は不法行為の成否の判断にあたっては、保険契約締結に際し保険契約者が変額保険の仕組みについて実際にどのように認識し、どのような判断の下に契約申込みを意思決定したかを探究すべきであり、変額保険あるいは金融商品一般についての保険契約者の判断能力がどの程度のものであったか、保険契約の勧誘にあたった者がいかなる資料を交付してどのような説明をしたか、運用の危険性についての認識を誤らせる断定的判断や誤った情報が示されるなど、保険契約者の意思決定を誤らせる事情はなかったか等の諸般の事情を考慮して保険契約者の右認識、意思決定を認定し、前記の判断を行うのが相当である。

二  本件各契約に至る経緯

1  証拠(甲第八ないし第一一号証、第二二号証、乙第一ないし第五号証、第一四、第一五号証、第一六号証の二、三、第一八号証、第二一号証の一、二、第一七、第二五、第二六号証、丙第一号証、第五号証の一、二、第六号証、証人佐々木博、証人今堀雅彦及び原告本人)によれば、次の事実が認められる(一部争いのない事実も含む。)。

(一) 原告は、大正五年三月一一日生まれで、本件各変額保険契約締結当時七四歳であったが、昭和二九年から、繊維製品の輸出販売を主な業務とする光起産業株式会社の代表取締役として、同社の経営にあたってきた。同社は、最盛期には社員六人を擁していたが、本件各契約当時には、休業準備に入っているような状態であった。

原告は、光起産業株式会社の事務所があるほか第三者に賃貸している東京の神田駅前所在の地下二階付七階建のビルとその敷地をはじめ、横浜中区池袋の土地建物、横浜本牧大里町の土地、預貯金一億円等の資産を有していたため、かねてから相続税に関心を抱いており、取引のある金融機関に相続税額の試算を依頼してその額が二億円以上に上るとの結果を得るなどしていた。原告は右相続税額の支払原資として預貯金と横浜本牧大里町の物納で大体賄えると考えていた。

(二) 今堀は、被告三菱神田支店の営業社員であるが、平成二年四月下旬ころ、新規取引先開拓の目的で、担当地区内にあった原告の経営する光起産業株式会社を訪れて原告と面談し、事業の多角化やビルの建替え等の話を持ちかけたものの原告の関心を引くことはできなかったが、同社のビルが原告個人の所有であると聞いて相続税を話題にしたところ、原告が興味を示したため、変額保険による方法が有効であることを紹介した。

今堀は、その後も週二回程度原告を訪問し、変額保険を用いた相続税対策について、自分の有していた知識をもとに、銀行から融資を受けて保険料を支払えば現金を用意する必要がなく、借入分が債務として控除されるので相続税評価額が低くなるとともに、保険料が保険会社によって運用され、相続時に納税資金が確保できる旨の説明をしたところ、原告が関心を持ったため、専門家である保険会社の詳しい説明が必要と考え、当時被告三菱に出入りしていた保険会社のうちで運用実績の一番よいと思われたエクイタブルを紹介する旨を原告に告げ、その承諾を得て、同社の社員を同行した。

エクイタブルの社員は、原告に対し、変額保険について、運用実績を一二パーセントとした場合の手書きのシミュレーション(運用実績表)を用いて一通りの説明をしたが、原告は、長年貿易に携わった経験から外資系の保険会社に対して根強い不信感を抱いていたため、エクイタブルの社員の説明には関心を示さなかった。そして原告はエクイタブルとは取引をしたくない旨今堀に告げるとともに、生命保険会社はかねてより取引のある被告千代田でもよいのかと尋ねた。融資をするにあたっては保険会社はどこでもよかったことから、今堀は被告千代田でもよいと答えた。

(三) 原告は、昭和六二年三月ころ、被告千代田との間で、原告及びその妻子を被保険者とする一時払養老保険(保険金額合計一億三八七七万三五〇〇円、保険料九一五四万二四〇〇円)に加入しており、このときの被告千代田神田営業所の担当者が田中であったことから、平成二年五月三一日、電話で、田中に対し、「エクイタブルから変額保険を勧められているが、外資系の会社は嫌なので、被告千代田が変額保険を扱っているならば説明に来て欲しい。」と頼んだ。田中は変額保険の募集資格は有していたものの募集経験がなかったことから、同営業所の所長である佐々木と共に、同日、原告の経営する光起産業株式会社に原告を訪ねた。

佐々木は、原告に対し、変額保険の説明のために持参した「変額保険(終身型・一時払)キャピタルリッチ」と題するパンフレット(乙第一号証)を示しながら、原告が既に加入している一時払養老保険が定額保険であったことから、定額保険と変額保険の違いなど変額保険の基本的な仕組みについて説明した。右パンフレットには、表紙の裏に、変額保険の仕組みとして、「変額保険とは…保険料は一定で、保険金額が特別勘定の資産の運用実績に基づいて増減する生命保険です。」と大書され、次頁には「変額保険のしくみ」との題のもとに、「この保険は運用実績に応じて保険金額が変動します。したがって、‥保険金額は上下し一定ではありません。」と記載され、その下に最低保証される基本保険金と変動する変動保険金を組合わせた二通りのグラフが描かれ、その次の頁には、「変額保険は保険金額・解約返戻金額が変動する仕組みの保険ですが、保険の内容、特質をご理解いただくために下記例表を掲載しています。この例表の数値は、例示の運用実績が保険期間中一定でそのまま推移したものと仮定して計算したものであり確定数値ではありません。実際のお受取額は、運用実績及び配当実績により、変動(上下)しますので、将来のお支払額をお約束するものではありません。」との記載の下に、特別勘定の運用実績を九パーセント、4.5パーセント、〇パーセントとした場合の死亡・高度障害保険金と解約返戻金の額を、三年後、五年後、一〇年後の場合に対応して表が掲載されている。さらに、裏面には、「運用対象」との題のもとに「上場株式、公社債等の有価証券を主体とした運用を行うこととし、具体的投資対象は国内外の経済・金融情勢、株式・公社債市場の動向等を勘案して決定します。※ご契約者は、経済情勢や運用如何により高い収益を期待できますが、一方で株価の低下や為替の変動による投資リスクを負うことになります。」との記載がある。

佐々木が当日説明のために持参したのは右のパンフレットだけであり、シミュレーションは持参しておらず、佐々木からシミュレーションのことを話題に出すこともなかった。

原告は、佐々木からシミュレーションの話が出ないので、自分から佐々木に対し、エクイタブルの社員が作成した一二パーセントの場合のシミュレーション(運用実績表)を見せ、シミュレーションを作成して持参するよう求めた。

そこで、佐々木は、原告に対し、原告の生年月日、相続人の姓名及び生年月日、原告の所有財産の内容等の具体的情報を用意するよう頼んだ。

(四) 一方、今堀は、原告が被告千代田を希望したため、取引のない被告千代田に挨拶をしておく必要を感じ、平成二年六月一日、被告千代田神田営業所を訪れて、佐々木に挨拶し、佐々木が原告を次に訪ねるときに、今堀も同行することとした。

(五) 佐々木は、原告からもらった情報をもとに、「御見積書」と題する平成二年六月四日付けのシミュレーション(甲第八号証)を作成し、同日ころ、田中及び今堀とともに原告を訪れ、これに基づいて説明した。

右シミュレーションは、被告千代田がコンピューターによって作成したもので、(1)当時の土地課税価格を六億五〇〇〇万円とし、土地が今後五年間は、一年に一〇パーセントずつ、その後は五パーセントずつ値上がりすることを前提に、二五年後までの課税価格及び納税額を算出したもの、(2) 原告が被保険者になる場合について、保険金額を九パーセントの運用例で試算し、納税額や借入金の元利金等から資金収支を計算したもの、(3)妻及び三人の子供を被保険者とした場合について、納税額、借入金の元利金、右変額保険契約に加入しない場合との相続税納税額の比較を試算したもの、(4)原告、妻及び三人の子供を被保険者とした場合について保険金額、解約返戻金額を九パーセントの運用例で試算し、解約返戻金に対する所得税及び住民税を計算して資金収支を計算したもの、(5)九パーセントで運用した場合の被相続人及び相続人の保険金及び解約返戻金を試算したものと、(参考)として、4.5パーセント又は〇パーセントで運用した場合の被相続人及び相続人の保険金及び解約返戻金を試算したものが、表の形で記載されている。なお、借入金利は7.6パーセントとして算出されている。

原告は、右設計書の各所に鉛筆書きで、印をつけたり、計算値を書き込んだりしながら佐々木の説明を聞き、随時質問をしていた。

この間、田中及び今堀は、ほとんど口を挟むことなく、傍らに座って佐々木の説明を聞いていた。

(六) 佐々木は、その後も、前記シミュレーション(甲第八号証)を被保険者を原告とする保険の保険金額を三億円から一億円に減額して作り直した「御見積書」と題する平成二年六月一三日付けのシミュレーション(甲第九号証)を作成し、このころ原告を訪れ、これをもとに説明した。このシミュレーションは、被保険者を原告とする保険に関する試算の欄に後から手書きでバツを書き加えられており、(3)妻及び三人の子供を被保険者とした場合の納税額等を試算したものの表題に丸がつけられている。

これは、佐々木と原告のやりとりの中で、被保険者を原告とする契約は、原告が高齢で保険料が高いこと等から、止めることに設計変更したためであり、原告としては、妻が死亡した場合の二次相続まで考慮に入れ、原告の相続発生時の納税資金は預貯金及び横浜本牧大里町の土地を物納することで賄うことも考えていた。

佐々木は、同月二五日に、原告から、変額保険契約の申込みを受けるまで、約一〇回ほど原告を訪れ、説明を繰り返し、シミュレーションの中身のみならず、被告千代田の運用方法の実際や運用実績についてまで尋ねる原告の質問に答え、契約内容に検討を加えた。その間、二回位田中が同行したことがあり、三回位今堀が同席したことがあったが、変額保険の説明は専ら佐々木が行った。

佐々木は、シミュレーションを使って、借入金、解約返戻金の額の推移を説明し、借入金を作ることによって、相続税課税価格を引き下げる節税効果があること、一方で、九パーセントで運用された場合には借入元利金は解約返戻金を常に上回ること、運用は株式や証券でなされ、運用実績は一定ではなくそれによって解約返戻金は変動することについて説明した。

もっとも、佐々木は、原告に対し、保険料の運用は、被告千代田における運用の専門家が行うから九パーセントを下回ることはないであろうとの楽観的な見通しを示し、現在の運用実績は、13.2パーセントであると話していた。

(七) 原告は、平成二年六月二二日ころ、田中の訪問を受け、「キャピタルリッチ変額保険(終身型)」と題する設計書(乙第一六号証の二、三)を受領した。

この設計書には、前記パンフレットと同様の変額保険の仕組みについての記載や運用実績を九パーセント、4.5パーセント及び〇パーセントとした場合の運用実績例表が記載されていたが、田中は右設計書について特段説明は加えなかった。

(八) 原告は、平成二年六月二四日ころ、佐々木と最終的な打ち合わせを行った際、前記設計書とシミュレーションとどちらを使って話をするかと尋ねたところ、佐々木は、シミュレーションを使う旨返答し、シミュレーションに沿って説明をした。

原告は、同月二五日、被保険者を石川芳憲とする契約を除いた三口の変額保険申込書に署名押印し、「ご契約のしおり―定款・約款」を受け取った。

(九) その後佐々木は、前記シミュレーションの原告の妻の年令が誤っていたため、その一時払保険料を修正した平成二年七月三日付けのシミュレーションを作成し、原告に交付した。これには、赤のサインペンで被保険者を原告とする保険に関する試算の欄にバツがされているほか、九パーセントで運用された場合の一〇年後の保険金額及び解約返戻金額欄に下線が引かれ、4.5パーセントで運用された場合の一〇年後の解約返戻金額欄が囲まれている。

また、三頁目は白紙であり、そこには、佐々木が、原告から教示を求められて算出した一二パーセントで運用した場合の一〇年後の解約返戻金額が記載され、原告がその数字に基づき九パーセントの場合との差額を計算した結果が記載されている。

(一〇) 今堀は、平成二年六月初めに佐々木と共に原告を訪れて以降、変額保険の保険料について被告三菱との融資契約を獲得すべく、週二回位原告を訪問し、融資契約について金利の変動や利息分の借入れにも利息がつくので複利のような計算になること等を説明し、場合によっては、原告の質問に答えて、自分のわかる範囲内で変額保険の節税効果等についても話をしたが、佐々木が原告に対して変額保険の説明、勧誘を行っている席には数回同席したにとどまった。

原告は、同月末ころ、今堀に変額保険の保険料の融資を申し込み、同年七月六日、個人ローン申込書を作成した。

(一一) 原告は、本件各変額保険契約を締結するに際し、前記のとおり佐々木から受けた説明及び資料によって、変額保険が株式等の有価証券で運用し、その運用実績により保険金額及び解約返戻金額が変動する生命保険であり、運用実績は一二パーセント、13.2パーセントといった高い水準の場合もあるが、4.5パーセント、〇パーセントという低水準に下がることもあること、相続人は借入金の元利金の返済に保険契約の解約返戻金をもって充てることになるため、この返済が可能かどうかは変額保険の運用次第であって、運用実績によっては保険契約者側(相続人)が多額の損失を被る危険があることを理解していた。原告は、過去四〇年にわたって、繊維製品を世界各国に輸出する光起産業株式会社の代表取締役として同社の経営にあたってきたのであり、為替等の知識はいうまでもなく、相当程度の経済的知識を有し、繊維不況を経験するなど事業の浮沈の厳しさを経験してきていたから、保険料の支払を全額銀行借入れで賄い、自己負担が不要という説明自体そんなに甘いものではないと疑っていたし、株価や為替などの変動によるリスクを負うことの厳しさを認識しており、それ故に佐々木に被告千代田の具体的な運用方法や運用実績について質問したのであった。原告の右質問に対する佐々木の回答も、運用方法の実際は企業秘密なので教えられないが、運用の専門家が運用するのだから心配ない、現在13.2パーセントで運用しているが一二パーセントのこともあるといった楽観的な話にすぎず、慎重な原告を到底納得させるものではなかったが、それにもかかわらず、原告が本件各変額保険契約を申し込むに至ったのは、原告が次のように考えたためであった。すなわち、原告は、自分が死亡した場合、本件各変額保険契約を締結しないときに支払うべき相続税額が二億円以上に上るとの試算結果を取引のある金融機関から得ており、預貯金と横浜市本牧大里町の土地の物納で大体賄えると考えていた。これに対し、本件各変額保険契約を締結したときには、一〇年後の相続税額を一億九五五五万円とし、これに運用実績を九パーセントとしたときの借入元利金と解約返戻金との差額五六八六万円を加えると、二億五二四一万円となるので、本件各変額保険契約を締結しないときと比べて有利であるとはいえないが、運用実績を一二パーセントとすると借入元利金と解約返戻金との差額が逆転して一億一八一五万円余剰が生ずることになるので、本件各変額保険契約を締結しないときよりも相当有利になると考えた。原告は、エクイタブルの社員から運用実績を一二パーセントとするシミュレーションを受け取り、エクイタブルに対しては外資系の保険会社なので嫌ったものの、一二パーセントという高い運用実績に魅力を感じていたのであり、被告千代田の佐々木にも当時の運用実績を質問して13.2パーセントであると聞いたことから、高い運用実績に魅力を感じ、不安を感じつつも、自己の経済情勢の見通しに照らしても悪くても九パーセント程度は何とか大丈夫であろう、それならそんなにマイナスは大きくないというように考え、手をこまねいているよりは一二パーセント程度の高い運用実績の可能性に賭けてみようと考えて本件各変額保険契約を申し込むことを決意した。

2(一)  原告本人は、エクイタブルの社員がシミュレーションを見せて説明をしたが、このシミュレーションは荒削りの簡単なものであり、エクイタブルの社員から渡されなかったし、見もしなかった、説明も荒削りのもので、自分の事業上の経験から外資系の金融機関を信用していなかったので、上の空で聞いており、特に質問もしなかったと供述しており、甲第一一号証中にも同旨の記載部分がある。

しかしながら、原告本人尋問の結果によれば、被告千代田の佐々木が原告を初めて訪れたときには佐々木はシミュレーションを持参しなかったし、佐々木からシミュレーションの話は全く出なかったこと、そこで、原告の方から佐々木にエクイタブルの社員がシミュレーションを持参したことを告げ、これを受けて佐々木が二回目に原告を訪れたときにシミュレーションを持参したこと、原告は、エクイタブルの社員の訪問を受ける前に今堀からエクイタブルが一番高率だからそこを推薦するという話を聞いていたこと、以上の事実が認められるのであり、これらの事実によれば、原告がエクイタブルの社員の持参したシミュレーションに少なからぬ関心を抱いていたことは否定し難いといわざるを得ず、原告がエクイタブルの社員から運用実績一二パーセントのシミュレーションを受け取って所持しており、これを佐々木に対して示して被告千代田としてもシミュレーションを作成するよう求めたとの乙第一四号証の記載及び証人佐々木博の証言は裏付けがあり、信用することができるものというべきである。そして、右各事実及び各証拠によれば、原告は、エクイタブルの社員から運用実績を一二パーセントとするシミュレーションを受け取り、エクイタブルは外資系の保険会社なのでこれを嫌ったものの、一二パーセントという高い運用実績に魅力を感じていたのであり、被告千代田の佐々木が原告を初めて訪れたときには佐々木がシミュレーションを持参しないし、話題にも上らなかったので、原告の方から積極的に佐々木にエクイタブルの社員がシミュレーションを持参したことを告げてシミュレーションの作成、提出を促し、これを受けて佐々木が二回目に原告を訪れたときにシミュレーションを持参したことを認めることができる。

(二)  原告は、原告が自ら田中に変額保険の説明を求めて電話をしたことはなく、今堀が佐々木らを連れてきたこと、佐々木からパンフレットや「ご契約のしおり」は受け取っていないこと、佐々木の説明にはほとんど毎回今堀が同席し、積極的に変額保険への加入を勧誘していたことを主張し、甲第一一号証及び原告本人の供述中には、同旨の部分がある。

しかし、原告が出入りのある保険会社の自分の担当者に一声かけるというのは非常に容易であるのに対し、従前被告千代田と取引関係のなかった今堀が、原告の担当者である田中やその上司である佐々木を連れてくるというのは不自然というべきであり、この点に関する証人今堀雅彦の証言は、証人佐々木博の証言と不整合な点はなく、乙第一五号証(田中博子の陳述書)、乙第二五、第二六号証の名刺の記載とも合致する。したがって、被告千代田が原告を訪れた経緯は、前記認定のとおりであり、この認定に反する前掲の証拠は採用できない。

また、生命保険契約においては、勧誘の初期の段階で、当該保険の概要を説明したパンフレットを交付するのが通例であり、特に本件では、原告から変額保険の説明を請われて訪問しているのであり、基礎となるべき情報がないためシミュレーション等の資料が作成できない段階で、初めての説明に何の資料も持たずに赴くとは考えにくい。実際にも佐々木は初めての訪問のときにはシミュレーションを持参しておらず、話題にすら出さなかったことは前記認定のとおりであって、パンフレットを持参せずそれに基づいた説明をしなかったとすれば、原告から変額保険の説明を請われたことに何ら対応しなかったことになるし、田中から頼りにされて営業所長として顧客の勧誘に乗り出したというのに、何も行わなかったことに等しくなる。原告が契約を申し込む前に右パンフレットとほぼ同様の説明や注意事項が記載された設計書(乙第一六号証の二、三)が交付されたことは原告においても認めていることからしても、佐々木においてパンフレットの交付を行わない事情は存在しないと考えられ、パンフレットは原告に交付され、それに基づいて説明がされたと認めるのが相当である。

それと同様に、遅くとも契約締結までには、「ご契約のしおり」を保険契約者に交付するのが通例であり、本件の場合、これを行わない特別な事情はないこと、乙第二ないし第五号証(契約申込書)の「『ご契約のしおり 定款約款』を受領しました。」という欄に原告の押印がなされていること、証人佐々木博の証言によれば、被告千代田では保険証書(乙第二二号証の一ないし四)を原告に郵送する際に受領を確認する葉書を同封しているが、受領していないという返信が来ていないことからすれば、「ご契約のしおり」についても原告に交付されたと認めるのが相当である。

今堀の新規取引先の開拓という目的からすると、原告が変額保険に加入し、保険料支払のためにまとまった金額の融資契約を取って、目的を達成できるのであるが、もともと被告千代田と被告三菱とは取引関係がなく、原告が変額保険への加入を決意しても必ずしも被告三菱に融資を申し込むとは限らないから、今堀が原告を積極的に訪問し、融資の申込みを受けようとしていたことは想像に難くない。

しかし、被告千代田はもともと原告と取引関係にあるうえ、今堀は保険については素人であるから、営業所長で経験も豊富な佐々木をさしおいて、特に保険会社の運用にかかる事柄を口に出すこと自体、はばかられるのが普通であって、原告主張のように、今堀が積極的に変額保険への加入を勧誘していたというのは不自然というべきであり、原告の主張に沿う前掲証拠は証人今堀雅彦及び同佐々木博の各証言に照らして採用できない。

3(一)  佐々木の原告に対する変額保険の説明については、原告は、専ら九パーセントの運用実績の場合を表にしたシミュレーションに基づいて行われ、さらに、佐々木は、運用実績について、「大蔵省では九パーセントまでしか認めていないので、それ以上の書類は出せないが、証券、株を運用して、実際はこれ以上になる。」と述べて一二パーセントの場合の計算したメモを見せ、「一二パーセントの場合、これだけ得する。責任を持って確実に運用するので間違いない。実際は13.2パーセントくらいだ。」と説明し、九パーセントどころか一二パーセント以上の利回りが期待でき、九パーセントを下回ることはないとの説明に終始したと主張する。

しかし、佐々木が原告に対し、変額保険について、保険料を株式等に投資して運用し、その運用状況に応じて保険金額や解約返戻金が増減する保険であり、株価の低下や為替の変動によるリスクを契約者が負担することを説明していたことは前記認定のとおりであり、原告もその本人尋問において、保険料が株式等によって運用されるため、保険金額や解約返戻金額が変動するとの説明を受けたことを認めている。さらに前記認定のとおり、原告が交付を受けたパンフレット及び設計書には、変額保険の前記特徴及び運用実績が九パーセント、4.5パーセント、〇パーセントの場合について、五年後、一〇年後、さらにその後の保険金額や解約返戻金額の変化がわかりやすく記載されているし、原告が説明を受けたシミュレーション(甲第八ないし第一〇号証)にも、4.5パーセント、〇パーセントの場合の保険金額や解約返戻金額の表が記載されており、平成二年七月三日付けのシミュレーションには、4.5パーセントで運用された場合の一〇年後の解約返戻金欄が赤のサインペンで囲まれていることからしても、4.5パーセントや〇パーセントの場合が、佐々木の説明の中で全く無視又は否定されていたものとは認められない。

また、原告は、エクイタブルの社員から運用実績を一二パーセントとするシミュレーションを受け取り、一二パーセントという高い運用実績の可能性に魅力を感じていたのであり、被告千代田の佐々木が原告を初めて訪れたときには佐々木がシミュレーションを持参しないし、話題にも上らなかったので、原告の方から積極的に佐々木にエクイタブルの社員がシミュレーションを持参したことを告げてシミュレーションの作成、提出を促し、これを受けて佐々木が二回目に原告を訪れたときにシミュレーションを持参したことは前記認定のとおりであって、この事実に加え、甲第一〇号証、乙第一四号証、原告本人尋問の結果(後記採用しない部分を除く。)、証人佐々木博の証言並びに原告本人がエクイタブルの社員からシミュレーションを渡されなかったし、見もしなかったと事実に反する供述をしていることを弁論の全趣旨として併せ考えると、佐々木が持参したシミュレーションについては、これは運用実績が九パーセント、4.5パーセント及び〇パーセントの場合についてのものであったのに、原告の方から佐々木に対し運用実績を一二パーセントとした場合の数値を質問し、自らもメモしたのであり、原告から聞かれもしないのに佐々木の方から積極的に一二パーセント以上の利回りが期待できると述べたとの事実は認め難いといわなければならないし、平成二年七月三日付けのシミュレーションの三頁目に運用実績を一二パーセントとした場合の一〇年後の解約返戻金額を記載したことについても、原告が大蔵省の指導を慮って断る佐々木に対し強く要請して遂にこれを作成させたものであると認めるのが相当である(原告本人の供述中この認定に反する部分は採用することができない。)。

原告は、変額保険が株式等の有価証券で運用し、その運用実績により保険金額及び解約返戻金額が変動する生命保険であり、借入金の元利合計の返済が可能かどうかは変額保険の運用次第であって、運用実績によっては保険契約者側(相続人)が多額の損失を被る危険があることを理解していたのであるが、反面、一二パーセントという高い運用実績の可能性に魅力を感じていたため、佐々木に右のとおり運用実績を一二パーセントとした場合の数値を質問したり、シミュレーション中に運用実績を一二パーセントとした場合の一〇年後の解約返戻金を記載したメモを作成させたのであって、佐々木が原告の強い関心に右のように答えたことを理由に、運用実績が一二パーセントの場合を積極的に示して一二パーセント以上の利回りが期待できるとの説明に終始したなどということができないことは明らかである。

(二)  一方、証人佐々木博は、その証言中で、当時の運用実績について、直近の一年間については七パーセントから八パーセントであった旨を原告に告げ、九パーセント以上だとは言ってないと述べている。

しかし、証人今堀雅彦は、佐々木が原告に当時の運用実績を九パーセントより高い水準であると説明しており、今堀自身も借入金を上回っていると思っていたと証言していること、原告が記憶している数字が13.2パーセントという具体的なものであること、平成二年七月三日付けのシミュレーション(甲第一〇号証)の三頁には、一二パーセントで運用された場合の一〇年後の解約返戻金の金額が佐々木によって記載されており、既に契約申込みがされた後のものではあるが、この記載により原告が一二パーセントの運用を意識していたことがうかがわれることからすると、佐々木は、原告に対し、現在の運用実績は、13.2パーセントであると告げていたものと認めるのが相当であり、右認定に反する証人佐々木博の証言部分は信用できない。

(三)  さらに、原告本人はその尋問中で、佐々木が運用実績は九パーセント以下になることはなく、九パーセントは保証されていると説明した旨供述している。

たしかに、佐々木は、原告の質問に対し、被告千代田の運用方法の実際は企業秘密なので教えられないが、運用の専門家が運用するのだから心配ない、現在13.2パーセントで運用しているが一二パーセントのこともあると述べるなど、楽観的な見通しを述べたことは否定できない。しかし、原告は、変額保険が株式等の有価証券で運用し、その運用実績により保険金額及び解約返戻金額が変動する生命保険であり、運用実績は一二パーセント、13.2パーセントといった高い水準の場合もあるが、4.5パーセント、〇パーセントという低水準に下がることもあること、相続人は借入金の元利金の返済に保険契約の解約返戻金をもって充てることになるため、この返済が可能かどうかは変額保険の運用次第であって、運用実績によっては保険契約者側(相続人)が多額の損失を被る危険があることを理解していたし、過去四〇年にわたって、繊維製品を世界各国に輸出する光起産業株式会社の代表取締役として同社の経営にあたってきたのであり、為替等の知識はいうまでもなく、相当程度の経済的知識を有し、繊維不況を経験するなど事業の浮沈の厳しさを経験してきていたのであり、株価や為替などの変動によるリスクを負うことの厳しさを認識していたから、佐々木の前記のような楽観的な話をまともに受け取ったわけではなく、変額保険でありながら九パーセント以上の運用実績が保証されているなどとは考えていなかったのであって、佐々木の話は、表現等に不適切な点があったとしても、原告にとっては、佐々木から見た単なる予測の域を出ない話にすぎないものであったというべきである。したがって、佐々木が運用実績は九パーセント以下になることはなく、九パーセントは保証されていると説明した旨の原告の供述は採用できない。

三1  本件各変額保険契約の錯誤無効について

前記認定事実によれば、原告は、保険料支払のための借入金の元利合計の返済に保険契約の解約返戻金をもって充てることになるため、この返済が可能かどうかは変額保険の運用次第であって、運用実績によっては保険契約者側(相続人)が多額の損失を被る危険があることを理解しており、保険料の支払を全額銀行借入れで賄い、自己負担が不要という説明に対してそんなに甘いものではないと疑問を感じ、株価や為替などの変動によるリスクを負うことに不安があったが、当時の運用実績が13.2パーセントと高水準であることを聞き、自己の経済情勢の見通しに照らしても、悪くても九パーセント程度は大丈夫であろう、それならそんなにマイナスは大きくないというように考え、一二パーセント程度の運用実績になることに期待をかけて本件各変額保険契約を申し込むことを決意したものというべきであるから、本件各変額保険契約を締結するに際し、変額保険の基本的な仕組み、すなわち、変額保険が払込保険料を特別勘定で運用し、株式等の有価証券に投資して運用すること、変動保険金や解約返戻金が運用次第で変動し、運用実績が保証されているものではないことについて十分理解しており、自己の責任の下に経済情勢等の予測を行って本件各変額保険契約申込みの意思決定をしたものというべきである。

2(一) これに対し、原告は、運用実績について、契約当時13.2パーセントであり、今後も一二パーセント以上を維持し、最低でも九パーセント以上にはなり、これが金利を上回ることはほぼ確実であるとの説明を受け、その旨誤信して本件各変額保険契約を締結したのであり、錯誤があったと主張する。

(二) 前述のとおり、佐々木は保険料の運用実績は九パーセントを下回ることはないであろうとの予測を示してはいるが、これをもって九パーセント以上の運用実績を保証したということはできず、その予測にしても、佐々木は一方で保険料は株式等に投資されているのでその運用実績は株式等の運用状況に応じて変動すること、株価の低下や為替の変動によるリスクは契約者が負担する旨説明しているところ、原告は、過去四〇年にわたって、繊維製品を世界各国に輸出する光起産業株式会社の代表取締役として同社の経営にあたってきたのであり、為替等の知識はいうまでもなく、相当程度の経済的知識を有していたものと認められるから、いかに有能な専門家が運用したとしても、株式の運用に最低保証、下限があるなどと本気で信じたものとは到底考えることができず、また、原告は、佐々木から4.5パーセントや〇パーセントの運用実績を前提としたパンフレットやシミュレーションの交付を受けているのであるから、原告は、佐々木の運用実績に関する前記発言が、単なる将来の予測、それもたぶんに楽観的な見通しにすぎないことをわかっていたものといわざるを得ず、結局は原告自身の経済情勢等の予測に基づいて契約したものというべきである。

(三) また、前述のとおり、佐々木は、原告に契約当時の運用実績を13.2パーセントと述べているが、甲第一九号証の一によれば、契約申込みの約三か月前である平成二年三月三一日時点で、平成元年一月加入、二月加入、三月加入の変額保険の特別勘定に投入した保険料の運用実績はそれぞれ7.3パーセント、7.3パーセント、6.1パーセントであったことが認められる。

したがって、契約当時の運用実績が13.2パーセントという佐々木の説明は誤っていたというほかはなく、佐々木は運用実績が良好であった平成二年三月三一日以前の時点における利回りを紹介したものと考えられる。

そして、原告は、運用実績が九パーセントにとどまる場合には、解約返戻金は常に借入元利金を下回るのであるから、借入元利金が債務として控除され、相続税評価額を引き下げるという効果があるにしても、なお本件各変額保険契約を締結しなかった場合と比較して有利であるとはいえないことを計算したうえで、佐々木から現在の運用実績が13.2パーセントであると聞き、自己の経済情勢の見通しに照らし、悪くても九パーセント程度は大丈夫であろう、それならそんなにマイナスは大きくないというように考え、一二パーセント程度の運用実績になることに期待をかけて本件各変額保険契約を申し込むことを決意したものであることは前述のとおりである。そうすると、現在の運用実績が何パーセントであるかが原告の右判断の基礎資料として重要なものであり、原告が現実には六、七パーセントにすぎない運用実績を13.2パーセントと誤信していたことが右判断に影響したことは否定できないが、原告は変額保険の基本的な仕組みを十分理解し、諸般の事情を考慮して、経済情勢等の予測を行って本件各変額保険契約申込みの意思決定をしており、現在の運用実績が何パーセントであるかは右のとおり総合考慮された事情の一つであるにとどまり、これが決め手となって原告が右意思決定をしたことまではこれを認めるに足りる証拠がないから、原告の右誤信は本件各変額保険契約の内容、属性に関するものではなく、原告の右意思決定に際しその判断要素の一つについて誤った情報を提供したことにより被告千代田の不法行為責任の成否が問題となるのは別論として、右誤信をもって、契約締結の意思表示に要素の錯誤が存するものということはできない。

3  また、原告は、佐々木が解約返戻金に賦課される所得税及び住民税をシミュレーションに記載せず、原告に重大な誤解を与えたと主張する。

前記のとおり、本件各変額保険契約のような、被保険者を保険契約者の相続人とする場合は、保険契約者死亡時に、借入金債務と生命保険契約上の権利が被相続人から相続人に移転し、一時払生命保険の権利評価が相続税法上、一時払保険料の額によるものとされているために(相続税法二六条一項ただし書)、マイナス財産である借入金債務は利息によって大きく膨らんでいるのに対し、プラス財産である保険の権利評価額は一時払保険料のままで一定である結果、その差額分だけ相続財産全体の評価が圧縮され、相続税額が低減されるとの節税効果が生じるといわれ、一方、相続人は借入金の元利合計の返済に保険契約の解約返戻金をもって当てることになる。また、解約返戻金は一時所得とされるため、所得税及び住民税が賦課される。したがって、変額保険が相続税対策として有効であるためには、解約返戻金及び節税額の合計が、借入元利金、所得税及び住民税の合計より多くならなければならないということになる。

そして、佐々木は前記のとおり、甲第八ないし第一〇号証の各シミュレーションを用いて原告に対して節税効果を説明したのであるが、佐々木が原告に交付した被保険者を原告の妻及び三人の子供とする最終的なシミュレーション(甲第一〇号証)には、たしかに解約返戻金に対して賦課される所得税及び住民税について記載がなく、原告本人尋問の結果に照らしても、佐々木が甲第一〇号証を示して説明をした際に取り立てて所得税及び住民税の説明をしたとは認められない。しかしながら、佐々木が甲第一〇号証を交付する前に原告に交付していた甲第八、第九号証には、原告及びその相続人を被保険者とする変額保険に加入した場合のシミュレーションがあるところ、右シミュレーションには相続人(原告の妻と三人の子供)の保険を解約した場合の解約返戻金に賦課される所得税及び住民税額の数額が明記してあり、右所得税及び住民税額は被保険者を相続人のみとする変額保険を解約した場合と同額であることは明らかであるから、原告はわずかな注意を払えば、解約返戻金に対して所得税及び住民税が賦課されることとその予想額を知り得たというべきであり、甲第八ないし第一〇号証、証人佐々木博の証言及び原告本人尋問の結果によって認められるように原告は佐々木が交付したシミュレーションを子細に検討し、疑問と思う点については佐々木に尋ね、慎重に考慮していたことが認められるのであるから、原告自身において所得税及び住民税を考慮に入れた節税効果を算出することは十分可能であったというべきである。

また、原告は甲二五号証の二を挙げて、特別勘定の運用実績が九パーセントの場合ですら、解約返戻金に所得税と住民税を賦課されることを加味して計算すると変額保険加入の節税効果は存在せず、変額保険に加入しない場合と比較して一貫してマイナスの収支となることを指摘しており、右書証から推測すると、本件各変額保険契約の場合節税効果が上がるのは九パーセントよりさらに高い利回りの場合であることが予想される。そして、原告は、このことを正確に認識していなかったから錯誤が存するとも主張するが、原告は、前記のようにシミュレーションを慎重に検討したうえで本件各変額保険契約に加入し、また長年貿易会社の代表取締役の地位にあったのみならず、原告個人が所有するビルを第三者に賃貸して収益を挙げ、当然右のような経済活動に伴って長年納税も行ってきたのであるから、シミュレーションに登場する少なからぬ額の所得税、住民税を考慮しなかったというのも不自然であるし、また、前記認定のとおり、原告が運用実績が一二パーセントの場合の一〇年後の解約返戻金額について、佐々木に対して教示を求め、九パーセントの場合との差額を自ら計算しているところからすれば、原告は九パーセントの運用実績では十分な相続税対策にはならないのではないかと思っていたと解されるのであるから、原告は所得税及び住民税についても考慮に入れていたと解することができ、結局この点について原告に錯誤があったと認めることは困難というべきである。

四  被告千代田の説明義務違反について

1  佐々木が原告に対し、保険料の大半が主に株式や債券等の有価証券で運用され、その運用実績により保険金額及び解約返戻金額が変動する生命保険であるという変額保険の基本的な仕組みを説明し、原告がこれを理解していたことは既に述べたとおりであるし、また、佐々木が本件各変額保険契約のように相続人を被保険者とする契約が相続税対策となり得ることについても、納税額、銀行からの借入元利金、解約返戻金額等を記載したシミュレーションを交付してこれを説明し、原告はこれも理解していたことも前記のとおりである。

2(一)  佐々木は原告に対し、保険料の運用について、現在は13.2パーセントで運用しているが、一二パーセントのこともあるものの、被告千代田における運用の専門家が運用するのだから九パーセントを下回ることはないだろうと述べたことは前記認定のとおりであり、これが原告の主張する断定的判断の提供にあたるかについて以下検討する。

前記認定によれば、原告は、過去四〇年にわたって、繊維製品を世界各国に輸出する光起産業株式会社の代表取締役として同社の経営にあたってきたのであり、為替等の知識はいうまでもなく、相当程度の経済的知識を有しており、佐々木から変額保険の基本的な仕組みの説明と4.5パーセントや〇パーセントの運用実績を前提としたパンフレットやシミュレーションの交付を受け、シミュレーションの作成を自ら要求し、佐々木に具体的な質問を重ねて緻密に検討を繰り返していたのであって、変額保険の基本的な仕組みを十分理解し、運用実績が4.5パーセント、〇パーセントという低水準になることも可能性としては十分認識したうえで、九パーセントであれば、本件各変額保険契約締結に旨味はないが、生じるであろう損害も許容範囲内であること、一方、一二パーセントであれば、解約返戻金の余剰が生じ、十分利益があることを分析し、今後の経済情勢の見通しとしては、現状維持の一二パーセント前後で推移すればよし、多少下向きになることはあっても九パーセントを割り込むところまでは低迷しないであろうとの予測のもとに、最終的に契約締結の申込みを決断したものというべきである。すなわち、原告は、十分な理解力と判断力を有していたのであって、このような原告にとっては、佐々木の運用実績に関する前記発言は、それが将来のものに関する限度では、特に客観的な資料が提供されることなくされた単なる将来の予測、それも多分に楽観的な見通しにすぎないことが自明のものであったということができるから、原告はその程度の受け止め方しかしなかったというべきである。

結局、原告の前記決断は、決して、佐々木の楽観的な見通しに左右されたものではなく、自己の長年にわたり培ってきた事業経験や景気動向の分析に基づいて慎重に検討した結果というべきであるから、佐々木の前記発言をもって、断定的判断の提供があったということはできない。

(二) しかしながら、佐々木が契約当時の運用実績を13.2パーセントであると説明したことについては、佐々木が契約当時に知り得た平成二年三月三一日時点の運用実績が六ないし七パーセントである以上、誤った情報を提供したものといわざるを得ない。

そして、原告は、自己の経済予測に基づいて本件各変額保険契約の申込みを決断しているが、その判断資料として、佐々木に現在の運用実績を尋ねており、佐々木の13.2パーセントという回答を基礎として、将来の予測を組み立て、多少の景気後退をリスクとして見込んだうえで、それでも九パーセントを割り込むほどの著しい落ち込みまではないものとの予測を立てたものである。ところが、仮に現在の運用実績が六、七パーセントであると原告が認識していたならば、現状では、損益分岐点である九ないし一二パーセントという土俵に乗ってさえおらず、今後かなりの景気上昇が見込まれるという場合でなければ、到底利益を得ることは難しいのであるから、その場合の経済情勢の見通しとしては全然異なることになる。

結局、現在の運用実績は、原告が本件各変額保険契約の申込みをするかどうかの意思決定をするうえで基礎となる事実であり、この点について佐々木が誤った情報を提供したことの原告の意思決定に与えた影響は看過し難いものがあり、佐々木の右行為は説明義務違反を構成するものといわざるを得ない。

3 甲第一三号証の一ないし三、乙第一〇ないし第一三号証の各一、二、丙第一五号証及び原告本人尋問の結果に弁論の全趣旨を併せて考えれば、原告は、被告千代田に対し、平成四年一一月一一日、本件各変額保険契約の解約を請求し、同月一六日解約返戻金及び配当金を受領したが、右解約に先立ち、原告が被告千代田から平成四年八月一日を作成時点として受けた通知によれば、既に平成三年九月の時点において本件各変額保険契約締結時から右の時点までの間の運用実績が九パーセントを大きく下回っていたのであり、その後も平成四年八月まで運用実績は悪化する一方であって、右解約の時点では、運用実績が、原告が期待していた一二パーセントはおろか、最低線として想定していた九パーセントまで回復する客観的な見込みは存しなかったものというべきであるから、右解約の時点において、原告に佐々木の右説明義務違反による損害が発生し、右解約返戻金及び配当金の受領によって損害が確定したものと解するのが相当である。

よって、佐々木の前記行為には、不法行為を構成すべき説明義務違反があるというべきであり、佐々木の使用者である被告千代田は、原告に対し、損害を賠償する責任を負うものと認められる。

五  被告三菱及び被告ダイヤモンドに対する請求について

1  本件各変額保険契約の締結にあたって、原告が主張する錯誤が認められないことは前述のとおりであり、原告が本件各融資契約及び保証委託契約の無効原因として主張する錯誤の内容も、右変額保険契約の無効原因と同一の事実であるから、その余の点について判断するまでもなく本件各融資契約及び信用保証契約についても錯誤の主張は認められない。

2 四項で認められた被告千代田の説明義務違反は、前述のとおり、原告から現在の運用実績を聞かれた被告千代田の担当者佐々木が、実際の数字と異なる誤った回答をし、もって原告に誤った情報を提供し、それが原告の意思決定に影響を与えた点にある。

したがって、右佐々木の行為による責任は、被告千代田にのみ帰すべきものであって、基本的に被告三菱には無関係であるというべきである。

もっとも、原告は、本件の場合、被告三菱の行員今堀が主導的に融資と一体をなす変額保険を勧誘しているので、今堀は保険給付の適格性や確実性について説明すべき信義則上の義務を負う旨主張しており、右の点についても、今堀が佐々木の誤った情報提供を是正すべきであったにもかかわらず、それを怠った旨主張する。

しかし、変額保険契約と右保険の保険料の支払のために金員を借り入れる融資契約は、互いに当事者、目的を異にする別個の法律関係であるから、銀行は融資契約の内容についてだけ説明すれば足りるのであって、例外的に銀行の行員が保険会社の担当者になりかわって、変額保険の勧誘を主体的かつ積極的に行い、主として自分の勧誘によって保険契約申込みの意思決定がされ、保険会社の担当者から変額保険の基本的な仕組みについての説明が十分されていないことを認識している場合のように、銀行の行員が保険会社に説明義務違反のあることを知り又は知ることができ、銀行に説明義務を肯定することを信義則上相当とする特段の事情があるときでない限り、銀行に保険契約についての説明をする義務はないものと解するのが相当である。

しかし、本件の場合、前記の認定のとおり、本件各変額保険契約は新規取引先開拓の目的で今堀が光起産業株式会社の原告を訪ねたことがきっかけとなって締結に至ったものではあるものの、今堀は、当初変額保険の内容について概要を述べたにとどまり、原告の連絡を受けた被告千代田の佐々木が原告を訪問して勧誘、説明を開始した後は、特段積極的に原告を勧誘することもなかったのであるから、今堀が変額保険の勧誘を保険会社の担当者になりかわって主体的に行ったわけではなく、被告千代田の運用実績の正しい数値を知っていたわけでもないから、今堀が被告千代田に説明義務違反のあったことを知り又は知ることができたということはできず、被告三菱に説明義務を肯定することを信義則上相当とする特段の事情が存することを認めるに足りる証拠はない。したがって、今堀には原告に対してされた誤った情報提供を是正すべき義務はないから、原告の前記主張には理由がないというべきである。

六  原告の損害

原告が本件各変額保険契約を締結したことによって生じた損害は、前記被告千代田の説明義務違反により生じたものというべきであるから、以下その数額を検討する。

1  前記前提となるべき事実によれば、原告が本件各変額保険契約を締結したことにより被った損害は、次の(一)ないし(三)の合計一億五九三五万四三七九円であることが認められる。

(一) 保険料相当額(三億九四二七万五〇〇〇円)から解約返戻金及び配当金(三億一三九一万六四四二円)を控除した差額八〇三五万八五五八円

(二) 保証委託手数料等(八一四万七八六〇円、ただし印紙代六万円を含む)から戻保証料(七六〇万六五四三円)を控除した差額五四万一三一七円

(三) 本件各融資契約に伴う利息七八四五万四五〇四円(既払利息二五四五万四五一一円及び平成八年三月二九日までに発生した未払利息五二九九万九九九三円)

なお、右損害には、本件各変額保険契約を解約したことにより被った(一)の損害のみならず、(二)及び(三)の損害を含んでいるが、これらは本件各変額保険契約を締結したことによって通常生ずべき損害とはいえないものの、被告千代田にとっては、原告が保険料を銀行から融資を受けて支払うことを当然の前提として本件各変額保険契約の締結に至っているものであるから、融資契約における利息の発生や保証委託手数料等の支出について当然予測していたものというべきである。したがって、(二)及び(三)の損害についても、被告千代田の不法行為との間の相当因果関係が認められる。

2  原告は、慰謝料として五〇〇万円の支払を請求しているが、原告には、財産的損害の賠償によってもなお償うことのできない特別の精神的苦痛を被ったと認めるに足りる事情はないから、右請求は理由がない。

七  過失相殺

前記認定によれば、原告は、変額保険が株式等の有価証券で運用し、その運用実績により保険金額及び解約返戻金額が変動する生命保険であり、運用実績は高い水準の場合もあるものの、4.5パーセント、〇パーセントという低水準に下がることもあること、借入金の元利金の返済に保険契約の解約返戻金をもって充てることになるため、この返済が可能かどうかは変額保険の運用次第であって、運用実績によっては保険契約者側(相続人)が多額の損失を被る危険があることを理解していたのであり、過去四〇年にわたって、繊維製品を世界各国に輸出する光起産業株式会社の代表取締役として同社の経営にあたり、為替等の知識はいうまでもなく、相当程度の経済的知識を有し、繊維不況を経験するなど事業の浮沈の厳しさを経験してきた者として、保険料の支払を全額銀行借入れで賄い、自己負担が不要という説明自体そんなに甘いものではないと疑っていたし、株価や為替などの変動によるリスクを負うことの厳しさを認識していたが故に、本件各契約締結に至る経緯に見られるように周到に検討を重ねてきたにもかかわらず、保険料がより高額になることを避けるべく、自らを被保険者とする契約を選択することなく推定相続人だけを被保険者とする契約を選択したうえ、この類型に属する本件各変額保険契約申込みの意思決定に及んでいるのであるから、以後の運用実績が悪くても九パーセント以上でなければ重大な結果を招来することになることを十分覚悟していたものといわなければならない。しかるに原告は、現在の運用実績について佐々木が13.2パーセントと述べたことをそのまま所与の前提として本件各変額保険契約申込みの意思決定をしているが、この点に関しては、佐々木が何ら客観的な資料を示すことなく口頭で述べた数字を盲信した点をさておくとしても、その根拠としては、現在の運用実績についての右佐々木の発言のほか、エクイタブルが一二パーセントを前提としたシミュレーションを用いて説明したこと以外には証拠上認められないのであって、このことに加え、原告本人尋問の結果及び証人佐々木博の証言により認められる次の事実、すなわち、原告は佐々木から変額保険の勧誘においては、大蔵省により一二パーセントの場合を表示した文書は募集活動に用いてはならないばかりか、九パーセント、4.5パーセント、〇パーセントの三通りの場合を出すように指導されている商品であることを知っていたことを併せて考えると、原告は高い運用実績の場合に受ける利益に眼を奪われてその可能性に賭ける冒険を犯してしまったといわざるを得ない。

また、平成二年に入ると、前年の大好況に若干かげりが生じ始めた時期であり(公知の事実)、原告としては変額保険の運用実績は株価の変動に連動することを熟知しながら、13.2パーセントなどという高利回りに何らの疑問も持たず、突っ込んだ質問をするでもなく信用したことは、原告のほかの点に対する慎重な態度に比して奇異な感じを受けざるを得ない。

結局原告が、本件各変額保険契約申込みを決断したことには相当程度の過失があるというべきである。

以上のほか、本件にあらわれた諸般の事情を考え併せると、原告の過失割合は決して小さいものではなく、その割合は七割と認定するのが相当である。

八  弁護士費用

原告が本件訴訟の提起、追行を原告訴訟代理人に委任したことは、本件記録上明らかであるところ、本件の事案の軽重、審理の経過等を考慮すると、被告千代田に請求し得る弁護士費用は、前記過失相殺後の損害額である四七八〇万六三一四円(一円未満四捨五入とする。)の一割相当額(四七八万〇六三一円)とするのが相当である。

九  遅延損害金の発生時期

以上により確定された損害五二五八万六九四五円のうち、未払利息を除く三六六八万六九四七円については、本件不法行為の損害発生時である本件各変額保険契約解約の日(平成四年一一月一一日)から、未払利息一五八九万九九九八円については、各利息の発生時期についての具体的かつ明確な主張立証がない以上、遅くともこの日までに発生したことが明らかな平成八年三月二九日から遅延損害金を付するのを相当とする。

第四  結論

以上によれば、原告の被告千代田に対する主位的請求は理由がないからこれを棄却し、被告千代田に対する予備的請求については五二五八万六九四五円及び内金三六六八万六九四七円に対する本件各変額保険契約解約の日である平成四年一一月一一日から、内金一五八九万九九九八円に対する未払利息の発生の日の後である平成八年三月二九日からそれぞれ支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、被告千代田に対するその余の予備的請求並びに被告三菱及び被告ダイヤモンドに対する請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行の宣言については同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官髙世三郎 裁判官小野憲一 裁判官男澤聡子)

別紙〈省略〉

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